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福岡県労働委員会委員コラム 第19回
第19回
「ロウキ(労働基準監督署)より、サイバンショ(裁判所)に近い? ロウイ(労働委員会)の役割って何?」
公益委員 千綿 俊一郎
ロウキ(労働基準監督署)は、労働基準法等の法令を十分に機能させるために設置された、行政監督機関です。 労働者からの割増賃金不払い等の相談に乗り、事業場を見回って法律が遵守されているかどうかをチェックし、労働者の安全確保の審査や、業務に起因した負傷等について認定や保険給付を行っています(労働基準法97条以下、労働安全衛生法88条以下、労働者災害補償保険法施行規則12条以下)。 行政機関としては、労働者にとって最も身近な存在であり、「労働者保護の最前線」 と呼ばれることもあります。
他方、ロウイ(労働委員会)は、労働組合法に基づいて設置された独立行政委員会です。 その主な役割として、「不当労働行為の審査」があります(労組法27条以下)。 例えば、労働者が、労働組合の組合員であることを理由として不利益な取扱いを受けた場合に、当事者(労働組合、労働者)は、不当労働行為(労組法7条1号)であるとして、労働委員会に対して救済を求めることができるのです。 このような申立てを受けた労働委員会は、双方の言い分を聴取し、争点及び証拠を整理して(労組法27条の6)、証人尋問等の証拠調べを行い(労組法27条の7)、救済命令あるいは棄却命令等の命令を発します(労組法27条の12)。これらの手続中において、和解による早期の紛争解決を図ることも多く見られます(労組法27条の14)。
このように、ロウイ(労働委員会)が担っている役割は、「争点及び証拠の整理」、「証人尋問」、「命令」、「和解」など、ロウキ(労働基準監督署)が担っている役割よりも、サイバンショ(裁判所)が担っている役割に近い面があります。 そのため、「労働者保護の最前線」であるロウキ(労働基準監督署)に比較すると、県民の皆さんにとって、ロウイ(労働委員会)は縁遠く感じられるかもしれません。 しかしながら、労働組合法が、ロウイ(労働委員会)による救済命令の方法を採用したのは、「専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨」にあると言われています(最高裁判所大法廷判決昭和52年2月23日)。また、サイバンショ(裁判所)では「過去の後始末」がなされるが、ロウイ(労働委員会)では「未来を見据えた手打ち」が求められているという言い方をされることもあります(森戸英幸『プレップ労働法第7版』(弘文堂、2023、306頁))。 このような役割を十分に発揮するために、使用者を代表する使用者委員、労働者を代表する労働者委員、公益を代表する公益委員の三者によって構成されている(労組法19条1項)のも、ロウイ(労働委員会)の特徴の一つです。
ロウイ(労働委員会)は、令和8年3月1日に制度創設 80 周年を迎えます。これを機会に、県民の皆さんにも、ロウイ(労働委員会)が果たしている役割・存在意義について関心を持っていただけると、大変うれしく思います。 |