本文
福岡県情報公開審査会答申第117号
「障害者任免状況通報書の部分開示決定処分に対する異議申立て」の答申内容を公表します。
答申
1 審査会の結論
福岡県知事(以下「実施機関」という。)が、平成18年1月23日17人第1351号で行った部分開示決定(以下「本件決定」という。)により非開示とした部分は、開示すべきである。
2 異議申立てに係る対象公文書の開示決定状況
異議申立てに係る対象公文書(以下「本件公文書」という。)は、実施機関が厚生労働大臣に通報した障害者任免状況通報書である。
実施機関は、福岡県情報公開条例(平成13年福岡県条例第5号。以下「条例」という。)の非開示条項に該当する部分があるとして本件決定を行っているが、本件公文書に記載されている情報のうち、実施機関が開示した部分及び条例第7条第1項第1号に該当するとして非開示とした部分は、別表のとおりである。
3 異議申立ての趣旨及び経過
(1)異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、本件決定の取消しを求める、というものである。
(2)異議申立ての経過
ア 平成18年1月4日付けで、異議申立人は、実施機関に対し、条例第6条の規定に基づき、本件公文書の開示請求を行った。
イ 平成18年1月23日付けで、実施機関は、本件公文書に記載されている情報の中に、条例第7条第1項第1号に該当するものがあると して本件決定を行い、その旨を異議申立人に通知した。
ウ 平成18年1月27日付けで、異議申立人は、本件決定を不服として、実施機関に対して異議申立てを行った。
4 異議申立人の主張要旨
異議申立書及び意見書における異議申立人の主張を要約すると、次のとおりである。
(1)障害者任免状況通報書に記載されている情報は、公開が予定されている情報であり、全部開示している自治体も多い。また、障害者の働く権利利益を守るため、福岡県の障害者施策の推進を図る上からも、公開をすることが必要な情報である。
(2)同僚によって障害者が特定されるおそれがある場合でも、働く力があることを証明することが障害者の権利利益を守ることになると厚生労働省は考えている。本当に障害のある職員の権利利益が同僚等によって侵害されるおそれがあるのかどうか、検討していただきたい。
(3)知的障害者については、採用試験を実施していないのであれば、開示しても不利益を受ける人はいないから、知的障害者の項目を非開示とする理由はない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関が条例第7条第1項第1号に該当するとし、本件決定を行った理由は、次のとおりである。
(1)本件非開示部分の各欄には、障害の種類・程度の区分ごとにその人数が記載されている。これらの記載は一桁である場合も多く、これらの数字が公にされた場合には、職場内の同僚等が、数字をもとに直接、あるいは、各年ごとの数字を比較すること等により、その種類・程度に対応する障害者である者を探索し、特定の者が障害者であること及びその障害の程度等を推認することが可能となるものであり、また、そのような探索や推認が必ずしも可能でない場合にも、そのような探索や推認を行う端緒や契機になり得るものである。
(2)(1)のような事態となれば、本人の意思にかかわらず障害者であることや障害の種類・程度を同僚等に詮索されることとなり、その結果、それ以前に比べて職場内の環境が悪化し、あるいは本人がそのように受け取るなどして、勤務を継続することが困難となることも考えられる。
(3)本件非開示部分は、個人の身体に関わる私的な情報であって、特定の個人を識別し得るもの、又は特定の個人を識別できないが公にすることにより障害者個人の権利利益を害するおそれがあるものである。
(4)本件非開示部分の知的障害者の項目についても、上記のとおり条例第7条第1項第1号に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しない。
6 審査会の判断
(1)本件公文書の内容及び性格について
本件公文書は、福岡県知事部局における平成17年6月1日現在の身体障害者及び知的障害者である職員の任免状況を記載した障害者任免状況通報書であり、障害者の雇用実態を把握するため、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)第40条の規定に基づいて毎年1回、厚生労働大臣に通報することとされている。
(2)条例第7条第1項第1号該当性について
条例第7条第1項第1号は、個人の尊厳の観点から、個人のプライバシーを最大限に保護するため、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することより、特定の個人を識別することができるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非開示とすることを定めている。
ア 個人識別性について
本件公文書のうち、実施機関が本件決定により非開示とした部分には、知事部局における身体障害者職員の数及び知的障害者職員の数並びに同職員の障害の種類・程度の人数が記載されているもので、これらは単なる数値であること、また、一般人が入手し得る情報であって、本件公文書と照合することにより特定の障害者個人を識別することができる「他の情報」の存在は認められないことから、個人を識別することはできない。
イ 特定障害者個人の権利利益の侵害について
特定の障害者個人に関する情報を職場内の同僚等が知り得る場合としては、特定の障害者個人の外見から知り得る場合の他、配置された所属において障害者が業務を円滑に行うことができるために必要な情報として人事担当者から障害者の上司や同僚に教示される場合がある。その情報は、個人の身体に関わるプライバシー情報であるため、教示を受けた障害者の上司や同僚は、当該情報を厳正に管理するものであり、正当な理由もなく他の者へ口外することは通常考えられない。
実施機関は、職場内の同僚等が有している情報をもとに、本件公文書を各年毎に比較すること等により、特定の障害者個人の障害の種類・程度を探索・推認することが可能であると説明するが、実際にそのような照合を行い、障害の種類・程度を探索・推認するためには、知事部局における障害者の毎年の採用数や退職数だけでなく、採用後に障害者になった職員数や障害者の障害の種類・程度に変更が生じた状況を知る必要がある。職場内の同僚等がそのような詳細な情報を知ることは通常考えられず、探索・推認することは極めて困難である。
さらに、実施機関は、そのような探索や推認が必ずしも可能でない場合にも、探索や推認を行う端緒や契機になり得るものであり、そのような事態となれば、本人の意思にかかわらず障害者であることや障害の種類・程度を同僚等に詮索されることとなり、その結果、それ以前に比べて職場内の環境が悪化し、あるいは本人がそのように受け取るなどして、勤務を継続しづらくなることも考えられると説明する。
しかし、これまで検討したように、職場内の同僚等は、特定の障害者個人の障害の種類・程度を既に知っている場合があるが、そもそも特定の障害者個人及びその障害の種類・程度を詮索していなかった職場内の同僚等が本件公文書の開示を契機として詮索するようになるとは考えにくく、職場内の環境悪化等に繋がるとの実施機関の説明は認め難い。
したがって、実施機関の懸念は十分な論拠に根ざしたものとは考えることはできず、本件非開示部分を開示することにより、個人の権利利益を害するおそれがあるとする実施機関の主張は認められない。
ウ 知的障害者の項目について
知的障害者を対象とした採用試験は、現在まで実施されていない。そうであれば、本件公文書に記載されている知的障害者の存在は認められず、権利利益を保護すべき対象が存在しないことから、実施機関の主張は認められない。
エ 結論
以上の理由から、本件公文書に記載された情報のうち実施機関が非開示とした部分は、条例第7条第1項第1号本文に該当しない。
以上の理由により「1 審査会の結論」のとおり判断する。
【別表】
開示した部分 | 開示しなかった部分 |
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「A 任免状況」欄 | |
(1)職員の総数(除外職員を含む。) | (4)「(1)から(2)を除いた職員のうち身体障害者 及び知的障害者の数」欄 |
(2)除外職員の数 | (イ)重度身体障害者の数 |
(3)旧除外職員の数 | (ロ)重度身体障害者以外の身体障害者の数 (ハ)重度知的障害者の数 |
(ニ)重度知的障害者以外の知的障害者の数 | |
(5)重度身体障害者である短時間勤務職員の数 | |
(6)重度知的障害者である短時間勤務職員の数 | |
「B 上記に基づく計算」欄 | |
(7)現在設定されている除外率 | (12)身体障害者の数 |
(8)基準割合 | (13)知的障害者の数 |
(9)(8)に基づく除外率 | |
(10)適用される除外率 | |
(11)法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員の数 | |
(14)障害者計 | |
(15)実雇用率 | |
(16)法定雇用率を達成するために採用しなければならない身体障害者又は知的障害者の数 | |
「C 障害者の雇用の促進等に関する法律別表に掲げる身体障害の種類別の身体障害者数及び知的障害者数」欄 | |
・身体障害の種類別の身体障害者数 | |
・知的障害者数 |