2024 AUTUMN
2029(令和11)年度
開館に向けて準備が進む
新福岡県立美術館の“今”
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新たなコミュニケーションを生み出す
吹き抜けの空間メディアヴォイド1階イメージ
これから5年の歳月をかけて、大濠公園の
南側に新しく生まれる福岡県立美術館。
基本設計を終えたこの春、
その全貌が少しずつ見えてきました。
設計者へのインタビューを通してご紹介します。
©株式会社隈研吾建築都市設計事務所
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屋上広場イメージ
新福岡県立美術館
整備事業の愛称&ロゴ
愛称の「大濠START PROJECT」は、「新しいアート活動の始まり」を意味。ロゴは公園の大池がモチーフで、4色の波紋はこのプロジェクトが多くの人に広まっていくようにとの願いが込められている。
目指す姿とコンセプト
新福岡県立美術館は、誰もがワクワクできる美術館を目指します。そのために新福岡県立美術館基本計画では、次の4つの柱を掲げています。
- 芸術の可能性を拡げ、挑戦する美術館
- 九州・福岡県の文化芸術の発展に貢献する美術館
- 県民が親しみ、誇りを育む美術館
- 公園と一体となった美術館
上記計画のほか、本県が推進するワンヘルス※の理念に基づき、新美術館の整備に取り組んでいます。
※人と動物の健康、環境の健全性を一つの健康と捉え、一体的に守っていくという考え方
開館までのスケジュール
Interview
1年以上に及ぶ「基本設計」を終えて見えてきたもの——。
株式会社隈研吾建築都市設計事務所
隈 研吾(くま けんご)さん(写真右)・ 名城 俊樹(めいじょう としき)さん(写真左)
photo:Shintaro Yamanaka(Qsyum!)
圧倒的な開放感
名城
隈
世界のアートシーンにおいて「都市と美術館の一体化」が最近のトレンドです。僕らがスコットランドで手掛けたV&ADundeeは美術館の真ん中に通路が貫通していて、世界のモデルケースといわれるものになりました。ただ、スコットランドは寒いのであまりガラスを使えませんでしたが、福岡ではガラスを多用して街と建物の一体化がより実現できると思います。
©株式会社隈研吾建築都市設計事務所
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アーバンスリット(国体道路側)イメージ
展示室の構成が生み出す
ユニークな鑑賞体験名城
階の展示室から吹き抜け空間の「メディアヴォイド」までが一体となって展示できるようになっています(写真1参照)。ここは、展示ケースを含め、もっと面白いことができるのではないかと学芸員の方々ともお話ししているところです。また、そこから2階のコレクション展示室、特別展示室と回り、最終的に屋上テラスへと足が向く、自然な流れを生み出したいと考えています。また、新しい美術館では現代アート作品を多く扱っていくとのことでしたので、大きな展示空間も用意しました。
展示室を抜けた先の日本庭園
隈
世界中で日本庭園のファンは増えていて、訪日目的の一つに「良い日本庭園を見ること」を挙げる人もいます。ここの日本庭園は、日本を代表する作庭家の中根金作(なかねきんさく)先生が手掛けており、そんな庭園が美術館から望めるのはなんともぜいたくです(写真5参照)。
©株式会社隈研吾建築都市設計事務所
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特別展示室イメージ
©株式会社隈研吾建築都市設計事務所
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東面(日本庭園側)イメージ
基本設計を終えた印象
「屋上を一つの丘に」名城
県の皆さんの「他にはないキャラクターの美術館を造ろう」という思いを強く感じる1年でした。展示室や展示ケースの形状など一つ一つに、いくつかデザインをご提案するのですが、大胆な提案を選んでいただくことが多く、そういう意味でもより画期的な美術館になるのではないかと思います。
隈
現代アートがアジアを中心に盛り上がっているこのタイミングで、アジアに一番近い福岡だからこその“大胆さ”を感じますね。我々もやっていてすごく楽しい!
「日本庭園との調和」や「街とのつながり」といった設計者の選定の際に高評価をいただいた点についても細かなところまで検討することができ、手応えを感じています。特に屋上はイメージしやすくなったと思いますね。最初はできるだけ広くという方針でしたが、いろんな条件を考慮した結果、屋上自体を一つの丘のようにすることにしました(写真2参照)。座ると視線の先に日本庭園が広がるので、ここは完成が楽しみなところです。皆さんにも早く見てもらって、「わあっ」と驚いてほしいですね。
県民へのメッセージ
名城
形がより具体的になってきましたので、その内容を県民の皆さんに知っていただくことが大事だと思っています。県民ギャラリーやレストランなど、特に県民の皆さんに主に使っていただく場所については、どういうものになればいいのか、基本設計をもとにご意見やご要望をワークショップなどでいただけるとうれしいです。これから工事期間が長いですが、今お寄せいただいている関心や熱量を盛り上げていくような機会も必要だと感じています。いろいろとお力をお貸しください。
隈
これまでワークショップは多く実施してきましたが、福岡は本当に雰囲気が良いですね。既に新県美ファンが生まれていると感じています。これから先のワークショップでもさらにファンを増やしながら、完成後にファンクラブみたいな形に移行できるよう、皆さんとの関わりを考えていきたいですね。皆さんの声を聞きながら良いものをつくり上げていきます。
©株式会社隈研吾建築都市設計事務所
大濠公園側正面イメージ
※本インタビュー内容は、特設サイト掲載の記事「基本設計をふりかえる」を作成する際に実施したインタビューを再構成したものです。
ワークショップ情報
今後もワークショップを随時開催予定。詳しくは、特設サイトをチェック!
〜新県美デザインワークショップ〜
2023(令和5)年6月に「Vol.1隈さんと語り合おう」、同11月に「Vol.2隈さんと考えよう」を開催し、計500人超の参加がありました。グループワークでの発表や、参加者から集めた質問に隈さんがその場で答えるなど、新美術館の始まりを感じられる機会となり、会場は熱気に包まれました。
〜子育て世代の視点で
「新県美」をもっと魅力的に〜2024(令和6)年7月、小学生以下の子どもを子育て中の皆さんと、親子で利用したくなる美術館づくりをテーマに、新美術館にどんな設備やプログラム、サービスがあると良いかについてお話しました。当日は、時折子どもたちの飛び入り参加もあったりと大変賑わいました。
サイト情報
新美術館が“できるまでサイト”もチェック
美術館の基本情報や最新ニュースなどが分かる公式サイト。現在の様子から建設中、完成まで、さまざまな角度から撮影記録する「定点観測」も好評。新美術館がお目見えするまでの“ワクワク”が詰まっています!
今回私たちが最重要視したのは「公園との一体感」。美術館の真ん中に通り抜け空間である「アーバンスリット」を設け(写真3参照)、その先に橋を架けることで国体道路から大濠公園の池までストレートに歩いて抜けられるようにしました。さらに、一般的には1階に展示や収蔵の機能を持たせざるを得ないケースが多い中、この機能を上階に上げることで、これまで難しかった1階の“抜け感”が実現できたのも大きな特徴です。1階が向こうまでドーンと見渡せる開放感は、全国、いや、世界でも他にないかもしれませんね。