2025 SPRING

第26回福岡デザインアワード
ものづくりへの思いに光を当て、
価値を高めるデザインの力
2024(令和6)年度は、全国から174社・217点の応募商品がエントリー。 オリジナリティーと市場性、デザインの観点から選び抜かれた受賞商品を紹介します。

ティーバッグや飲み切りやすい量にこだわった「雪ふる山のおそぶき茶」シリーズ。煎茶、ほうじ茶、和紅茶のほか、加工の難しい烏龍茶も商品化に成功。海外輸出用も生産しています。等高線を描いたデザインは中央のパッケージ
大賞
雪ふる山のおそぶき茶シリーズ
雪山で育まれた有機栽培茶 その個性とストーリーを凝縮
純白のシンプルなパッケージは、雪山で栽培された特別なお茶をイメージ。標高600メートルの八女の山間地に茶畑を持つ「お茶の千代乃園」では、3代目の原島政司(はらしま まさし)さん家族が創業80年の歴史を守っています。準高冷地にある茶畑は冬になると雪が積もり、平地よりも収穫時期が遅れる自然環境にあります。その一方で標高が高く害虫被害が少ない利点を生かし、2015(平成27)年から有機栽培に切り替え、その茶葉を商品化したのが「雪ふる山のおそぶき茶」シリーズです。厳しい気候条件を栽培の強みに変え、ネーミングやデザインで個性を表現した商品の中には、英語表記を取り入れたり、等高線を描き収穫地点の茶畑を示したりするなど、デザイナーに相談しながら、1年がかりでパッケージを開発したそうです。
娘の春花(はるか)さんが担当する併設のカフェでは、試飲や食事のお供に自家製茶を提供。「特に若い人に、お茶本来の味やうまみを楽しんでほしい」と、オーガニックなお茶の魅力を親子で伝えています。

お茶の千代乃園
原島 政司さん
冬季は雪で覆われる千代乃園の茶畑。農薬不使用、有機肥料を年に1回施肥する自然に近い栽培法を実践しています
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「普段お茶を飲まない人に気軽に楽しんでもらえる場」として、2019(令和元)年に「茶寮 千代乃園」を併設
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食事の前には食前茶として「濃厚なうまみと余韻が残る」氷出しの冷茶をサービス
金賞
小国杉のキッチンミトン
間伐材×軍手技術が生んだ5本指タイプのミトン
1960(昭和35)年の創業で、国内製造から販売までを一貫して行う九州で唯一の軍手工場から生まれた、5本指タイプのキッチンミトン。「軍手特有の編む技術を生かし、手先が動かしにくく持ちにくい従来のミトンの難点を改良しました」と開発者の稲葉雄大(いなば ゆうだい)さんは話します。素材の糸は、オーガニックコットンと熊本県小国町の間伐材を使った木糸(もくいと)をより合わせたオリジナル。丈夫で耐熱性があり、指先が自由に使えることから調理作業がストレスなくはかどると評判に。ナチュラルなデザインもキッチンになじみます。
3D製法を用いて10年前に試作していた凹凸のある独特の編み目を採用し、滑りにくいミトンを実用化。環境に配慮した糸で強度を高め、二重構造にして耐熱効果をアップ。アウトドアでも活躍する一品
金賞
トマトのおんがえしカレー
規格外トマトが食品ロスの削減と子ども支援へ
「規格外のトマトをもっと活用できたら」と、生産者の堤昭広(つつみ あきひろ)さんが発案したのは、トマトをたっぷりと使ったレトルトカレー。メニューの考案やパッケージデザイン、加工、PRまでを地元の学生や企業が一体となって取り組みました。トマトの酸味とサツマイモの甘みがバランス良く調和したカレーは、子どもにも大人気。廃棄されるはずだったトマトがカレーとして生まれ変わったことから「おんがえし」と名付けられたストーリー性のある商品は、北九州市内を中心に人気が広がっています。売り上げの一部は北九州市のこども食堂に寄付されています。
インパクトのある鮮やかなパッケージが目を引く商品は、2023(令和5)年度に「福岡県食品ロス削減優良取組知事表彰」を受賞。北九州市の給食メニューとしても登場しました
金賞
カードボードハンガー
環境に優しく、実用的なハンガー
リサイクルできる段ボールでできたハンガーは、プラスチック製ハンガーの代替品としてクリーニング業界向けに開発されました。「クリーニング事業で使用されるプラスチック量を減らして環境負荷を軽減したい」と話すのは、開発者の毛利明光(もうり あきみつ)さん。ワイシャツ用の開発に始まり、2年がかりで4way対応のハンガーを完成させました。ロゴの印刷も可能で、全国に普及すれば、年間数千トンのプラスチックが削減できることから、利用者からは「素晴らしい取り組み」と期待が寄せられています。
ハンガーのネックとボディの部材を分けることで、一番の課題だった強度をアップ。スカートやパンツだけでなく、スーツ・コート類にも対応。スカートを挟むクリップも段ボール製で細部までこだわり抜いた商品
金賞
アルミ鋳物(いもの)のお香立て/001
ユニークな仕掛けが生む香りと視覚の相乗効果
鋳物製品の原型となる木型の製作を行う村田木型製作所。「木型という職業の認知度を高めたい」という思いから、代表の村田誠(むらた まこと)さんが2022(令和4)年に立ち上げたのが、暮らし雑貨ブランド「coohii(こおひー)」です。3Dと手技を用いたお香立ては、火のついたお香を受け台の穴に挿し込み、ふたをして使用します。お香が燃焼するにつれ、穴から出る煙が9から1へ移ろいゆくことで残量が一目で分かる仕掛けが秀逸です。
アルミの鋳物という材質とシンプルなデザインが、さまざまな年代、性別、シーンになじむお香立て。火種が露出せず安全に使用できるふた付きなので、リラックスして癒やしのひとときを過ごせます