おうちで楽しむ県立美術館
「県出身作家」および「県とゆかりのある作家」の近世から現代の作品を中心に、作品の調査研究、収集を行っている福岡県立美術館。ここでしか出会えない貴重な作品が数多く収蔵されています。今回はその中からとっておきの4作品をご紹介。
すいれんの池/髙島 野十郎
(たかしま やじゅうろう)1890-1975
昭和24(1949)年、油彩、画布 89.0×129.9cm
福岡県立美術館蔵
現存する髙島野十郎作品の中で最大の大きさを誇る本作は、かつて日本ゴム株式会社(現アサヒシューズ株式会社)に飾られていました。新宿御苑を描いたといわれており、濃厚な色彩で描かれた森や水面に点在する睡蓮(すいれん)の花の白さが印象的な作品です。一つ一つの花弁から池畔(ちはん)の草木まであらゆるところに焦点が合っているように見えるほど精緻(せいち)に描き込まれていて、まるで時間が止まっているように感じられ、写実的でありつつも白日夢(はくじつむ)のような光景となっています。
髙島は久留米市出身の洋画家で、生前はほとんどその存在を知られることがありませんでした。県立美術館では、約40年にわたる地道な調査研究活動の結果、髙島の作品を数多く発掘し、独自の世界を明らかにすることができました。当時は無名だった髙島ですが、その魅力が広く伝わるようになり、全国各地にそのファンを増やしています。現在、県立美術館には髙島の作品約120点が収蔵されています。
蓮花(れんか)/児島 善三郎
(こじま ぜんざぶろう)1893-1962
昭和14年(1939)、第9回独立展、油彩、画布
福岡県立美術館蔵
福岡市で生まれ育った児島善三郎が蓮花を描いたのは生涯に2点のみ。本作は鎌倉市の鶴岡八幡宮の蓮池を題材に描いたものです。生き生きと描かれた緑色の葉と、間に見える白い蓮花、そして水面の揺らぎからは、力強く大胆な筆使いとみなぎる息遣いが感じられます。
児島が描いたもう1点の蓮花は、福岡城のお堀の蓮を描いたもの。それは、県立中学修猷館(現在の県立修猷館高校)在学時に姉と訪れた思い出の風景でした。蓮の花は、児島に福岡で育った頃を思い出させる深い思い入れのある題材だったのでしょう。西洋の模倣ではない日本の油彩を目指した児島は、その優れた色彩感覚と観察眼で、装飾性の高い独自の絵画を確立しました。
光の探求 ’89-I/豊福 知徳
(とよふく とものり)1925-2019
平成元年(1989)、木(マホガニー)
福岡県立美術館蔵
久留米市出身の豊福知徳は、国学院大学に進学、在学中に特攻隊に志願し入隊します。しかし出陣前に終戦を迎え、茫然自失で故郷に戻ってきました。その後、太宰府の木彫家である冨永朝堂(とみながちょうどう)に師事。木彫を学ぶ中で、近代彫刻に興味を持つようになりました。豊福作品の特徴は、ボリュームによって表現するそれまでの彫刻とは違い、穴を穿(うが)つことで虚の空間を生み出すというもの。日本だけでなく世界中で高い評価を受けています。博多港にある赤い引揚記念碑「那の津往還」をはじめ、屋外彫刻も県内各地で目にすることができます。
●県立美術館4階展示室
【開催予定】2022年1月22日(土)~3月13日(日)
シャルルロワ 赤いボタ山/
野見山 暁治(のみやま ぎょうじ)1920 -
昭和31年(1956)頃、油彩、画布
福岡県立美術館蔵
現在の飯塚市で幼少期を過ごした野見山暁治は、東京美術学校を卒業後従軍。福岡県内で終戦を迎えます。その後、東京を拠点としながら故郷にしばしば戻り筑豊の炭鉱風景を描いていました。本作は、パリ留学時にベルギーの炭鉱町シャルルロワで出会ったボタ山の風景を描いたもの。友人とベルギーのキャンプ地に向かう電車の中、故郷の炭鉱町と同じ匂いを感じ、この町へ引き返して夢中でデッサンをしました。帰国後、母校で教鞭を執りながら精力的に活動を続け、百歳になる現在もなおカンバスに筆を走らせています。
●県立美術館4階展示室
【開催予定】2021年10月9日(土)~2022年1月16日(日)